インド太平洋研究会 Indo-Pacific Studies

現代版IPR インド太平洋研究会へようこそ

ドイツ海軍 東洋巡洋艦隊

ドイツ海軍 東洋巡洋艦隊「シャルンホルスト

f:id:yashinominews:20210117080657j:plain

情報を発信するところに情報は集まる。

ドイツのミクロネシア統治の話をしていたら、ムーミンパパというアカウントネームの国際法軍事史研究家のサラリーマン(本当かな?)から興味深い資料を教えていただいた。

あまり期待しないで読み始めたら面白かった。真当な学術論文!文章のレベルもその内容もレベルが高い。偏見に満ちた「論文」に接する中でこういう資料に出会えるのは幸運である。

著者の大井氏は、『世界とつながるハプスブルク帝国: 海軍・科学・植民地主義の連動』という本も出しており、ドイツ史専門家である。

 

大井知範 第一次世界大戦前のアジア・太平洋地域におけるドイツ海軍-東洋 巡洋艦隊の平時の活動と役割 政經論叢. 77巻 . 3−4号

https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/7187/1/seikeironso_77_3-4_347.pdf

 

第一次世界大戦で、未だに日本が火事場泥棒をしたと言っている学者は京都大学の奈良岡君以外にるのだろうか?と考えていたら大井博士も参戦を強行した、と書いている。平間教授の第一次世界大戦の研究論文は参考資料に上がっていないので、当時の日英豪の防衛省と外務省の情報の錯綜の話はご存知ないのかもしれない。

大井氏は、日本の強行参戦の背景にドイツ東洋巡洋艦隊の存在があることを挙げ、その艦隊の平時の動きを詳細に追っているのだ。

高岡熊雄著『ドイツ南洋統治史論』によればドイツの植民はヴィルヘルム1世とビスマルク時代の第一期と、ヴィルヘルム2世の時代の第二期に別れる。当然後者の方が強行な植民政策を取った。ミクロネシア地域もせっかく現地文化を尊重した植民で成功してきたのに、暴力による植民に変わった途端、島の人の反乱に出会う。ドイツ海軍東洋巡洋艦隊の巡洋はその頃の話なのである。

これに加え、ハウスホーファーによれば、日本はヴィルムヘルム2世の三国干渉を許していなかった。

もっと言えば、百歩譲って日本が火事場泥棒をしたとしよう。しなければどうなっていたか?ミクロネシアの事情を知れば、あの地域を豪州が、もしくは米国が植民して面倒を見れたとは到底思えない。豪州はベルサイユ条約委任統治領となったニューギニアでさえまともに植民管理できていなかったのである。しかも門戸閉鎖を主張し今で言う「自由で開かれた」インド太平洋構想と逆を進んでいたのだ。旧独領には拙著『インド太平洋開拓史』で書いたように小嶺磯吉始め多くの日本人が経済活動をしていた。そもそも豪州海軍は1911年の設立されたばかりのまだよちよち歩きの時期である。

 

さて、大井論文はドイツ海軍東洋巡洋艦隊がインド太平洋地域を巡洋し日本への恐怖心を確認したが、自分たちに対する恐怖心には気がつかなかった。それが第一次世界大戦でドイツ軍が見落としていた点である、という。ここでも情報の錯綜が問題となっている。

大井論文だけ読むと、ドイツの植民はずいぶん酷いものであったという印象を持ってしまう。が先に述べたようにヴィルヘルム二世以降の話であって、それ以前は完璧に近い、島の文化を尊重した、科学的な植民が行われていたのである。

f:id:yashinominews:20210117080900p:plain