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セイエド・アッバス・アラグチ著書『イランと日本』

同書のオリジナルはペルシャ語で書かれておりタイトルも

『سفیر در ژاپن』(Safir dar Japan
(直訳:「日本における大使」 または 「駐日大使」
である。よって日本人の読者を想定しておらずかなり辛辣な日本批判も含まれている。国際政治学者を名乗る人が同書がアラグチ氏の「パブリックディプロマシー」と書いていたがそれはこの本を読んでいない証拠である。
また日本語訳を笹川平和財団が支援した、ということで同書に笹川の影響がある、というコメントもTWで見たがそれも間違いである。そもそもペルシャ語の言語が書かれた後に和訳を決めたわけである。アラグチ氏は笹川に感謝しているものの、興味深い事に2013年に開始している彼のTWには笹川のさの字も出て来ない。流石に笹川とモサドの関係や、日本のヤクザ、賭博の件を理解しているのだろう。
さて、同書の内容は日本人むけとは思えず、逆に今後日本に就任するイラン外交官向けに書かれた内容と理解するとわかりやすい、
何ヶ所か記憶に留まった内容を
・日本の謝罪文化:イランで拘束された日本人青年が解放され大使館に誤りにきた話。西洋であればイランが悪者にされ尾鰭をつけて報道される。しかしこの謝罪文化はイラン人にも受け入れられない習慣
・かつての敵国米国、イスラエルとパレスチナの抗争、イランと中東の関係、全てに日本は均衡とバランス外交を展開している。それは日本の経済的利益が背景にある。
・私が読みたかった箇所が第7章の米国との関係である。原爆を落とされた米国となぜここまで仲良くなれるのか?そして日本は一貫して米国の中東戦略から距離を置いている。2019年トランプ政権から有志連合に加わるよう圧力を受けた際、日本側は情報収集の一隻の艦艇をホルムズ海峡の外側に派遣した、とある。今回も同じ提案をしている。これが日本の法律でできる範囲なのだ。アラグチ氏は9条が米国によって押し付けられただけでなく、日本国民が平和を望み軍事産業で発展したいと思っていない、と指摘していることが今まさに議論されている武器輸出解禁の話と重なる。
・同じ7章を締め括っているのが京都でのお茶会だ。熟練の老齢の人物で茶会の師匠と紹介されているのは昨年亡くなられた千玄室氏であろう。アラグチ氏は千氏がアメリカ外交団に対し「この茶碗は貴国の歴史より長い」と皮肉をこめて言ったことをその後多くに人に語ったという。千玄室氏自身が若い頃特攻隊で、仲間を何人も失ったことをアラグチ氏はご存じだろうか?
・8章の書き出しに日本とイランの関係が明治から開始したことが書かれている。ちょうそ日本のアジア主義の原点興亜会に多くのイラン人会員がいたことを別の論文で知ったばかりだったので興味深かった。明治政府の吉田正春率いる外交団が1880年9月イラン皇帝に謁見したのだ。『回彊探検ペルシャの旅』に詳細があるようだ。日本のアジア主義にペルシャが最初から入っていたきっかけであろう。
・日本外交の中でイランの存在は大きい。アラグチ氏は日本イラン議連会長だった高村正彦議員から日米関係の強化が日イラン関係の強化に繋がるという説明を受け納得している。イラン・米国にとって敵の味方が日本、なのだ。もしくは味方である日本の味方が敵である。
・この具体例として、米国の制裁に追随せざるを得なくなった日本は在日イラン人に全ての口座を空にせよ、と制裁を実施する前に通達していた。さらにイランのタンカーへの保険がイランの保険会社を利用する必要があったが同社は国際的信用がなかった。そこで日本政府が76億ドルの予算を当て、日本政府が保証するイランの保険で日イラン貿易が継続することとなった。最近米国べっセント財務長官が米国政府の保険を提案しているが日本政府が先に、しかも目に見えない形で実施していたのだ。こんなことバラしていいの?アラグチ閣下!
・かなりのページがイラン人受刑者に関してさかれてる。日本のバブルのことビザフリーとなったイランから10万人前後が日本に来た。バブルがはじけ、多くが国に戻ったが1,000人前後が日本に留まり、犯罪に手を染める。アラグチ大使はイラン人が収容されている刑務所を周り状況を把握。イラン人には受けれがたい環境を理解しその改善に努めた。日本のヤクザ組織や警察との癒着も書いてある。笹川がヤクザ組織と関係があることを今は理解しただろう。
・最後の10章がアラグチ大使自ら炊き出しを行われた東日本大震災の詳細だ。一番最初に大使館を閉じて帰国したのはフランスだという。イランはそのアラグチ大使とその意思のある職員が留まることとなった。配給の際、被災地の子どもが自分の分しか配給物を受け取らないこと。誰も家に病人がいるのでもう一つと頼まなかった事が書かれている。
 
全体を通じて甘辛の日本批評である。国際政治学者を名乗るならパブリックディプロマシーとかいい加減な事を言う前に読むべきだ。口語調でユーモア溢れ、非常に読みやすい。